自分の子供の習字を教えるときの注意点やコツ
「美しい字が書けると、それだけで育ちが良く見える」
これは、私の祖母がよく口にしていた言葉です。
子供のころの私は、正直に言うと習字があまり好きではありませんでした。母はかなり教育熱心で、ピアノやそろばん、習字など、いろいろなおけいこに通わせてくれました。今思えばありがたいことなのですが、当時の私は「やらされている」という気持ちが強く、その中でも特に苦手だったのが習字でした。
墨のにおい、筆の扱い、半紙に向かってじっと座る時間。どれも子供の私には少し窮屈に感じられました。おけいこに行ってもなかなか上達せず、先生に注意されるたびに気持ちがしぼんでしまい、結局、習字は途中でやめてしまいました。
そんな私を見て、祖母が「それなら、家でおばあちゃんが教えてあげようか」と声をかけてくれました。大好きな祖母からの申し出だったので、子供心に断ってはいけないような気がして、とりあえず祖母に習字を教わることにしたのです。
最初は、また習字をやるのかと少し気が重かったのを覚えています。けれど、祖母の教え方は、これまでのおけいことはまったく違いました。できていないところを厳しく直すのではなく、まずは「ここ、きれいに書けたね」と良いところを見つけてくれました。字の形を細かく注意する前に、姿勢や筆の持ち方、半紙に向かう気持ちをゆっくり整えてくれたのです。
そのおかげで、私は少しずつ習字に対する苦手意識がなくなっていきました。気づけば、筆を持つ時間が嫌ではなくなり、もっときれいに書いてみたいと思えるようになっていました。そして結果から言うと、祖母に教わり始めてから一年ほどで、自分でも驚くくらい字が上手に書けるようになったのです。
この経験から感じたのは、子供に習字を教えるときに大切なのは、厳しく正すことだけではないということです。もちろん、姿勢や筆づかい、字のバランスを教えることは大切です。けれど、それ以上に、子供が「また書いてみたい」と思える雰囲気を作ることが、上達への近道になるのだと思います。
今回は、私の祖母の習字の教え方をヒントに、自分の子供に習字を教えるときの注意点やコツをご紹介します。自宅で子供に習字を教えたい方や、習字に苦手意識を持っている子供にどう向き合えばよいか迷っている方は、ぜひ参考にしてみてください。
まずは習字の魅力を教える
子供に習字を教えるとき、いきなり「ここを直しなさい」「もっときれいに書きなさい」と始めてしまうと、習字がただの練習や勉強のように感じられてしまいます。特に、すでに習字に苦手意識がある子供の場合は、書く前から気持ちが重くなってしまうこともあります。
祖母が最初にしてくれたのは、筆の持ち方を教えることでも、お手本を書かせることでもありませんでした。まず私に、字がきれいに書けることの魅力を教えてくれたのです。
祖母は、手書きで届いた郵便物や、お祝いの封筒に書かれた文字をよく見せてくれました。そこには、印刷された文字とは違う、書いた人の丁寧さや気持ちが感じられました。たしかに、美しい字で届いた封筒を見ると、それだけで「きちんとした方が送ってくださったのだな」と感じたものです。
ただ文字が読めるだけでなく、字が美しいと、相手に与える印象まで変わります。宛名が整っているだけで上品に見えますし、手紙の文字が丁寧だと、そこに込められた気持ちまで大切に見えてきます。
祖母はある日、私にこう言いました。
「ラブレターが届いたとき、きれいな字で書かれたものと、雑に書かれたものなら、どちらが優雅に見えると思う?」
子供だった私には少し照れくさいたとえでしたが、不思議とすごく納得しました。もちろん、ラブレターで一番大切なのは中身です。でも、丁寧で美しい字で書かれていると、それだけで気持ちまで大切に届けようとしているように見えます。文字には、その人の心づかいや余裕がにじむのだと、祖母は教えてくれたのだと思います。
さらに祖母は、「習字が上手になれば、筆だけじゃなくて、ペンでも鉛筆でも字がきれいになるよ」と言いました。
これは大人になった今、よく分かります。習字では、とめ・はね・はらい、線の太さ、字のバランス、余白の取り方をしっかり意識します。こうした基本を身につけると、筆だけでなく、鉛筆やボールペンで書く字にも自然と良い影響が出てきます。
当時の私は、祖母にうまく言いくるめられたような気持ちもありましたが、少しずつ「字がきれいに書けるって、ちょっと素敵かもしれない」と思うようになりました。習字を始める前に、その魅力を知ることができたからこそ、嫌々ではなく、少し前向きな気持ちで筆を持てたのだと思います。
自分の子供に習字を教えるときも、まずは「上手に書きなさい」と言うより、字がきれいに書けるとどんな場面で役立つのか、どんな印象を持たれるのかを伝えてあげるとよいでしょう。子供が習字の意味や魅力を少しでも感じられると、練習への向き合い方も変わってきます。
習字を教えるポイント~準備編~
自宅で子供に習字を教えるときは、筆の使い方や字の形を教える前に、まずは習字に向き合いやすい環境を整えてあげることが大切です。
習字というと、「静かに座って、背筋を伸ばして、精神統一して書くもの」というイメージがありますよね。もちろん、習字には落ち着いて文字と向き合う良さがあります。ただ、これから習字を始める子供にとって、その雰囲気を最初から求めるのは少しハードルが高いものです。
あまりに重々しい雰囲気を作ってしまうと、子供は「習字って難しそう」「ちゃんとしないと怒られそう」と感じてしまいます。そうなると、筆を持つ前から緊張してしまい、のびのび書くことができません。
最初のうちは、家庭生活の中に自然に習字を取り入れるくらいの気持ちで十分です。「ちょっと書いてみようか」「今日はこの字を書いてみようか」と、気軽に始められる雰囲気を作ってあげると、子供も習字に入りやすくなります。
最初の習字セットはこだわりすぎなくてよい
子供に習字を教えるとなると、つい良い道具をそろえてあげたくなるものです。高価な筆や硯、しっかりした習字セットを用意したくなる気持ちも分かります。
ただ、自宅で気軽に習字を教える段階では、最初から道具にこだわりすぎる必要はありません。むしろ、親も子供も気を使いすぎずに扱えるものを用意したほうが、リラックスして取り組めます。
「汚したらどうしよう」「高い筆だから大事に使わなきゃ」と子供が気にしすぎると、思いきって書けなくなってしまいます。最初は、手頃な価格の習字セットや、学校で使うような一般的な道具で十分です。
習字に慣れてきて、子供がもっと書きたいと思うようになってから、少しずつ道具を選んでいけばよいでしょう。
子供の気持ちが落ち着いている時間に始める
習字を教えるタイミングも、とても大切です。
子供がテレビを見たいと思っているときや、遊びの途中で気持ちが切り替わっていないときに無理に習字を始めると、「やりたくないのにやらされた」という印象が残ってしまいます。これが続くと、習字そのものに苦手意識を持ちやすくなります。
また、親が家事をしながら片手間で教えるのも、できれば避けたいところです。子供がうまく書けなかったときに、親の気持ちに余裕がないと、つい強い言い方になってしまうことがあります。
習字を教えるときは、短い時間でもよいので、子供のそばについて一緒に向き合える時間を選びましょう。子供も親がしっかり見てくれていると安心しますし、親も落ち着いて声をかけやすくなります。
「今日は10分だけ書いてみよう」「この字を1枚だけ書いて終わりにしよう」というくらいでも十分です。無理に長く続けるより、気持ちよく終われることを大切にしましょう。
汚れてもよい服に着替えさせる
習字をするときは、墨汁で服や机が汚れることがあります。特に子供の場合、筆を持ったまま手を動かしたり、墨をつけすぎたりして、思わぬところに墨がついてしまうこともあります。
そのため、習字を始める前には、必ず汚れてもよい服に着替えさせてあげましょう。子供が「服を汚したら怒られるかも」と気にしていると、書くことに集中できません。
習字は、ある程度汚れるものです。最初から汚れても大丈夫な環境を作っておけば、親も子供も気持ちに余裕を持てます。
机や床には新聞紙やレジャーシートを敷いておくと安心です。近くに濡れたタオルやティッシュを用意しておくと、手についた墨や机の汚れもすぐに拭き取れます。
「汚さないように書きなさい」と言うより、「汚れても大丈夫な準備をしておこうね」と伝えるほうが、子供は安心して筆を動かせます。
準備から子供にさせる
習字を始めるとき、大人がすべて準備をして、子供には書くだけをさせることもあるかもしれません。もちろん、小さい子供の場合は手伝いが必要ですが、できる範囲で準備にも参加させるのがおすすめです。
半紙を出す、下敷きを敷く、文鎮を置く、筆を準備する。こうした一つひとつの作業は、子供にとって「これから習字をするんだ」という気持ちの切り替えにつながります。
習字は、書く前の準備も大切な時間です。道具を並べながら、少しずつ気持ちが落ち着き、「さあ書こう」という姿勢が整っていきます。
最初はうまく準備できなくてもかまいません。道具の置き方を一緒に確認しながら、少しずつ自分でできることを増やしていくとよいでしょう。準備から片付けまでを習字の一部として教えることで、道具を大切に扱う気持ちも育ちやすくなります。
お手本を用意する
習字を教えるときは、お手本を用意しておくと子供も書きやすくなります。ただし、お手本にこだわりすぎる必要はありません。
教材店で売っているものでも、インターネットで印刷できるものでも大丈夫です。学校の課題がある場合は、その課題の文字をお手本にしてもよいでしょう。
大切なのは、子供が「どこを見ればいいのか」が分かることです。最初からお手本そっくりに書かせようとするのではなく、「この横線は長いね」「ここはしっかり止まっているね」「この字は上を少し小さく書くんだね」と、一緒に見るポイントを決めてあげると分かりやすくなります。
また、子供の苦手な字が見えてきたら、その字が入ったお手本を用意してあげるのもおすすめです。たとえば、はらいが苦手なら「大」や「木」、バランスが取りにくいなら「友」や「春」など、練習したい部分が自然に入った文字を選ぶとよいでしょう。
お手本は、子供を縛るためのものではなく、きれいに書くためのヒントです。比べすぎて落ち込ませるのではなく、「ここをまねしてみよう」と前向きに使うことが大切です。
習字を教えるポイント~実践編~
習字の準備ができたら、いよいよ実際に筆を持って書いていきます。実践編で大切なのは、いきなり字の上手・下手を判断しないことです。まずは姿勢、筆の持ち方、お手本の見方、筆の動かし方をひとつずつ整えていきましょう。
子供は、筆を持っただけでつい早く書き始めたくなるものです。しかし、習字は書く前の姿勢や半紙の位置、お手本の置き方によって、書きやすさが大きく変わります。最初に基本の形を整えてあげることで、子供も落ち着いて筆を動かしやすくなります。
姿勢を正しく保ち、筆を持つ
習字を始めるときは、まず姿勢を整えます。机の高さは、おへそくらいの位置を目安にすると書きやすくなります。半紙は体の真正面に置き、背筋を伸ばして、肩の力を抜きましょう。
姿勢が崩れていると、半紙全体を見渡しにくくなります。顔が近すぎたり、体が斜めになっていたりすると、字のバランスも取りにくくなります。背筋を軽く伸ばして座ることで、お手本と半紙の両方を見やすくなり、字の大きさや位置も確認しやすくなります。
次に、筆の持ち方です。筆は鉛筆のように寝かせるのではなく、紙に対してやや垂直に立てるようなイメージで持ちます。力を入れて握りしめるのではなく、指でやわらかく支えるように持つのがポイントです。
子供は筆を強く握りすぎることがありますが、力が入りすぎると線が固くなり、筆も動かしにくくなります。「ぎゅっと持たなくて大丈夫だよ」「筆がふわっと動くように持ってみよう」と声をかけると、少しずつ力を抜きやすくなります。
また、筆を動かすときは、手首だけで小さく書くのではなく、肘も少し使うように意識させるとよいでしょう。特に大きな字を書くときは、腕全体を使ったほうがのびのびとした線になります。
お手本の位置を正す
子供が書きにくそうにしているときは、字そのものの問題ではなく、お手本の位置が合っていないことも多いです。
お手本が遠すぎると、見るたびに顔や体が大きく動いてしまい、半紙に戻ったときに字の位置が分かりにくくなります。反対に、お手本が近すぎると半紙の邪魔になり、筆を動かしにくくなることがあります。
お手本は、子供が少し目を動かすだけで見られる位置に置いてあげましょう。右利きの子なら左上や正面の少し上、左利きの子なら右上など、筆を動かす手の邪魔にならない場所に置くと見やすくなります。
大切なのは、「お手本を見る」「半紙に書く」という流れが自然にできることです。お手本を見るたびに体勢が崩れてしまうと、集中も切れやすくなります。
また、お手本を置くだけでなく、最初に子供と一緒に見る時間を作るのもおすすめです。「この線は長いね」「ここはしっかり止まっているね」「このはらいはゆっくり伸びているね」と確認してから書くと、子供もどこを意識すればよいのか分かりやすくなります。
とめ・はね・はらいは書き順に乗ってリズミカルに
習字で大切なのが、とめ・はね・はらいです。これらは文字の最後の形を整えるだけでなく、次の画へつながる大切な動きでもあります。
字には正しい書き順があります。書き順に沿って筆を進めると、文字の流れが自然になり、勢いのある美しい字になりやすくなります。反対に、書き順がばらばらだと、線の向きや力の入り方が不自然になり、字全体のバランスも崩れやすくなります。
子供に教えるときは、まず書き順を一緒に確認しましょう。いきなり半紙に書かせるのではなく、空中で指を動かしたり、机の上でなぞるように練習したりすると、流れをつかみやすくなります。
とめは、筆をピタッと止める部分です。はねは、次の方向へ向かうために軽く弾む部分です。はらいは、力を少しずつ抜きながら線を伸ばしていく部分です。
この3つを子供に説明するときは、難しい言葉を使うよりも、「ここで止まる」「ここでぴょんとはねる」「ここはすーっと伸ばす」というように、動きで伝えると分かりやすくなります。
習字は、ゆっくり書けばよいというものでもありません。もちろん丁寧さは大切ですが、筆の流れを止めすぎると、線に勢いがなくなってしまいます。書き順に乗って、リズムよく筆を動かすことを意識させると、字に生き生きとした雰囲気が出てきます。
大きな動きで書いてみる
子供が習字をすると、字が小さくまとまってしまうことがあります。失敗しないように慎重になりすぎたり、筆を手先だけで動かしていたりすると、線が小さく弱くなりやすいのです。
習字では、手先だけでなく、肘や腕も使って大きく書くことが大切です。特に半紙に大きな字を書くときは、手首だけで書こうとすると動きが窮屈になります。腕全体を使うようにすると、線がのびやかになり、文字も堂々として見えます。
最初は、「半紙いっぱいに大きく書いてみよう」と声をかけてみるのもおすすめです。多少バランスが崩れても、大きく書けた字には元気があります。小さくまとまった字より、ダイナミックに書いた字のほうが、子供らしい魅力が出ることもあります。
大きく書く練習をすると、筆の動きも自然と大きくなります。はらいや横線も伸びやかになり、とめ・はね・はらいの感覚もつかみやすくなります。
もちろん、ただ大きければよいというわけではありませんが、最初のうちは細かい形を直すよりも、筆をのびのび動かすことを大切にしてあげましょう。子供が「思いきって書いてもいいんだ」と感じられると、習字への苦手意識も少しずつ減っていきます。
できた字の良いところを一緒に見つける
実際に書き終わったら、すぐに悪いところを指摘するのではなく、まず良いところを一緒に見つけましょう。
「この線はまっすぐ書けたね」「前より大きく書けたね」「ここはしっかり止まっているね」と、具体的にほめることが大切です。ただ「上手だね」と言うより、どこがよかったのかを伝えるほうが、子供も次に何を意識すればよいのか分かりやすくなります。
そのうえで、直したいところがある場合は、ひとつだけ伝えるくらいで十分です。「次はこのはらいをもう少し長くしてみよう」「次はお手本と同じくらいの大きさにしてみよう」と、次の目標として伝えると、子供も前向きに受け止めやすくなります。
習字は、何枚も書いて少しずつ上達していくものです。一枚一枚を完璧に仕上げることよりも、子供が「次はもっとよく書けそう」と思える終わり方を大切にしましょう。
私が祖母にされていたモチベーションコントロール
習字を教わる子にとって、字の上達を実感することが一番やる気がでます。
特に家で教える場合は、子供が積極的に取り組めるようにモチベーションを上げてあげる必要があるのです。
ここでは私が祖母にされていたやる気の出る方法を伝授しますのでちょっと見て行ってくださいね。
毎回書いた字を家に貼られる
これをされると他の家族から色々なことを言われます。上手だとか、もっと大きく書いた方が良いとか、色々な意見をもらえます。
私は褒められることが嬉しくて一生懸命になったものでした。
最後の一枚は好きな言葉や目標を自由に書かされる
習字の最後に、祖母は私に自由なタイトルを与えていました。
今思えばこれは、色々な書き方を試す良い機会でもありましたし、筆慣れするにはとても効果的だったと思います。
時々何か代筆を頼まれる
回覧板の署名欄やあて名書き等、祖母は時々私に代筆を頼んできました。
代筆と言う大役を任されたのが嬉しく、きれいな字を書こうと頑張ったことを覚えています。
さらにこれは、お手本がなくてもきれいな字が書ける練習にもなりました。
また、署名欄に書かれている他の人の美しい字を見てはインスピレーションを受けたものでした。
親子で楽しく習字を続けよう
自分の子供に習字を教えるときは、上手な字を書かせることだけを目標にしすぎないことが大切です。字の形を直す前に、まずは習字の魅力を伝え、子供が「書いてみたい」と思える雰囲気を作ってあげましょう。
習字は、姿勢や筆の持ち方、とめ・はね・はらいなど、覚えることがたくさんあります。だからこそ、一度にすべてを注意するのではなく、今日は姿勢、次は大きく書くこと、というようにポイントを絞って教えると、子供も取り組みやすくなります。
また、墨で汚れたり、思うように書けなかったりすることもありますが、それも習字の練習の一部です。親がそばで落ち着いて見守り、できたところを具体的にほめてあげることで、子供は少しずつ自信を持てるようになります。
習字は、すぐに上達が見えるものではありません。けれど、楽しく続けていくうちに、字のバランスや筆の動かし方は自然と身についていきます。親子で向き合う時間を大切にしながら、子供が文字を書くことを好きになれるように、無理のないペースで続けていきましょう。
